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那覇家庭裁判所 昭和49年(少)1006号 決定 1975年1月13日

少年 Y・H(昭三一・一二・三〇生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

昭和四九年一〇月九日九州地方更生委員会から申請のあつた戻し収容申請は、これを却下する。

昭和四八年七月一六日当裁判所がなした医療少年院送致決定は、これを取消す。

理由

(非行事実)

少年は、Aと共謀のうえ、

1  昭和四九年一二月一九日午前零時三〇分ごろ名護市○○○×××番地○城○夫方前路上に駐車中の同人所有に係る普通乗用車(○×○××)一台時価二〇万円相当を窃取し

2  昭和四九年一二月一九日午前四時四〇分ごろ名護市○○○×××番地○部○ン○リ前路上に駐車中の○嘉○夫所有に係る普通貨物車(○×○××××)一台時価一五万円相当を窃取しようとしたが、警察官に現認されその目的を遂げなかつ、

3  昭和四九年一二月一九日午前三時過ぎごろ名護市○○○×××番地○城方前路上に駐車中の○城○信所有に係る軽乗用車(○○××××)一台時価二〇万円相当を窃取しようとしたが、その目的を遂げなかつ

たものである。

(適条)

(1)  刑法二三五条、六〇条

(2)(3) 同法二三五条、二四三条、六〇条

(少年を医療少年院に送致する事由)

本件審理の結果明らかにした事情は、少年にかかる少年調査記録中の各書類並びに当審判廷における少年及び保護者の各陳述のとおりである。

少年は、昭和四八年七月一六日当裁判所において医療少年院に送致され、同四九年八月二九日仮退院したものであるが、仮退院中本件犯行を犯したばかりか、強姦を三件も犯しており、その組暴的性格・特性は未だに矯正されておらず、前回決定の際指摘した心身の障害の点についても未だ治療効果は十分にあがつていない。従つて再び相当期間少年を矯正教育に託し、その心身の状況に適した専門的処遇を受けさせることが必要であると思料する。

よつて、少年を医療少年院に送致することを相当と認め、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。

なお、昭和四九年一〇月九日九州地方更生保護委員会から申請のあつた戻し収容申請は、その必要性がないからこれを却下し、昭和四八年七月一六日当裁判所がなした医療少年院送致決定は、同法二七条二項によりこれを取消す。

(裁判官 浜川玄吉)

参考一

(その一)(家庭裁判所調査官の昭四九・一一・八付け「意見書」)

上記少年に対する昭和四九年少第四号戻収容申請保護事件は下記理由により申請の通り認容をなすを相当と思料する。

理由

(1) 本件申請の理由は、一件記録によれば要するに、昭和四九年八月二九日沖縄少年院を仮退院して以来、那覇保護観察所の保護観察下にありながら、仮退院後、極めて短期間就業したのみでその後正当の理由なく就業せず保護者の正当な監督にも服さず、夜遊びや無断外泊をかさねる等、保護観察成績は極めて不良であり、さらに○○学校女生徒を暴行のうえ、強いて姦淫する等の行為をなしたものである。そのことは、一般遵守事項及び特別遵守事項の各々に違背するものであり、この際は、本少年が満年齢に達するまでの期間少年院に戻して収容し、健全育成をはかる必要があるとするものである。

(2) 少年及び保護者等関係人を調査したところ、○○学校女生徒を暴行・強姦した事実が認められるのであり、さらに学校側によれば、本少年は少年院送致になつたのは同女生徒等のせいだと思い込んでいるようであり、計画的なものである旨、述べており、今後の学校周辺への立寄りを懸念している。また夜遊び等の件も仮退院間もない頃からあつたことが窺えるのであり、概ね、上記(1)事由中の遵守事項違反は認められるのである。

(3) ところで今一つ、検討すべきことは少年院へ戻して収容する程の合理性があるか否かという点についてである。少年は前件で少年院収容されて以来、院内における成績は、特に規則違反等もなく、円滑に累進処遇の上位段階に向かつて進んできているもので、概して良好であつたことが少年簿の処遇記録票等から明らかであつて、院内での適応状況が良く、その処遇上困難をきたしている点は認められない。

(4) 少年は聾者であつて一般に通常人との意志疎通がはかりにくく、その点で不憫さは否めない。仮退院後、親戚の者の紹介で建築関係の仕事に就いたものの、給料支払いの件で悶着を起し兄に説得されながらも一時期ふてくされた態度をとり続けていたのも結局、その点に帰結するものと思われる。

しかしながら、その性格特性について見ると、少年院送致決定時に指摘された短気ですぐにカッとなりやすいところや異性へのいたづら、自己統制力の欠如などといつた自己中心的で我侭な傾向は依然として強い点が指摘される。

(5) したがつて、そうした性格傾向を矯正すべき措置が構ぜられて然るべきであるところ、在宅においては、母親の指導では賄えず専ら、兄の注意叱責に頼つており、同兄は仕事の都合上(ガードマン)夜間は家を留守にするのが常であり、母、兄ともに少年との意志疎通の面で不充分である。加えて他に適当な社会資源もないところから、再度、少年院へ戻して収容し、生活訓練や院内の人間関係を通してその性格矯正を計るのが良策と思われる。尚、本少年の身体的状況や知的側面等を勘案した場合、医療少年院が妥当である。以上

(その二)(家庭裁判所調査官の昭五〇・一・九付け「意見書」)

上記少年に対する昭和四九年少第一〇〇六号窃盗・同未遂、保護事件は下記理由により(昭和四九年少ハ第四号戻収容申請事件に併合の上、不処分決定)をなすを相当と思料する。

理由

(1) 本件は、聾学校先輩のAと共にドライブ等なすべく敢行した車両盗事件であり、現行犯で逮捕されているものである。ドライバー、ペンチ等を持出して窃取に及んでいるが、本件少年の関わりの程度は見張り役といつたもので、主としてAがなしているものである。

(2) ところで本件は、先に戻収容申請事件の審判期日に少年が出頭せず、且つ家出して名護市内に住む上記友人宅へ遊びに行つた際に惹起されているもので、所在不明中の再犯であり、さらに少年は本件以外にも、○○学校中学部三年生の女子二人を強姦している事実が明らかである。

(3) こうした行為から、仮退院後の少年の行動傾向や興味・関心等の向け方に一向に変化がみられないばかりか粗暴的傾向は、むしろ進行しているとさえいえるのであつて、緊急に矯正策が講ぜらるべきこと前件(昭四九少ハ第四号戻収容申請)意見書で述べた通りである。

よつて標記の通り、本件を戻収容申請事件に併合したうえ不処分に対し、身柄を医療少年院へ送致する決定(戻収容申請事件意見書の通り)を相当と考えます。

参考二(戻し収容申請書中の「保護観察の経過及び成績の推移」、「申請の理由」)

保護観察の経過及び成績の推移

一 本人は、九州地方更生保護委員会の決定により、昭和四九年八月二九日沖縄少年院を仮退院し、沖縄県具志川市○○○×(母)Y・Rのもとに帰住して、那覇保護観察所の保護観察下に入つたものである。仮退院許可に際し、上記更生保護委員会が設定した特別遵守事項は、つぎのとおりである。

(1)、(2) 省略

(3) 早く定職につき、地道にしんぼう強く働らくこと

(4) 家出、無断外泊、夜遊びなどはしないこと

(5) 女性に対して、いたずらは絶対にしないこと

(6) 毎月保護司を必らず訪ね何事についても進んで相談すること

二 保護観察開始当初、本人は不就業の状態であつたが、同年九月一日頃から親戚に当るY・Sのもとにて建築大工見習いとして就業した。しかし同月二〇日頃給料を受領したところ、その金額が少ないとの理由で憤慨し、その後は職に就こうとせず、現在に至つている。

三 上記職をやめた後は、昼間は自宅において無為に過ごし、夜間は○○学校在学中の交友B(沖縄市○○○居住)と交遊、夜遊びを繰返し、この間二回位B方にて無断外泊をしている。なお、担当保護司に対しては、仮退院当日訪ねたのみで、その後は全く接触せず、また接触する意思もなかつた。

四 同年九月二三日頃、○○学校卒業生Aとともに上記Bのもとに遊びに行き、同人宅にて無断外泊し、同夜かねて顔見知りの同○○学校女生徒○吉○子を姦淫することを企画し、翌九月二四日午前八時頃、同女がバスから下車するのを待ち受け、○○学園裏側の基地に連行し、同女の手を殴る等の暴行を加え、本人が同女を全裸にしたうえ、強いて姦淫した。

以上のとおり、総合して本人の保護観察成績は極めて不良と認められる。

申請の理由

本人は、昭和四九年八月二九日沖縄少年院を仮退院して以来、同五一年一二月三〇日を保護観察期間の終了日として、現に那覇保護観察所の保護観察下にあるものである。

本人は、前記保護観察の経過及び成績の推移のとおり、極めて短期間就業したのみで、その後正当の理由なく、就業せず、保護者の正当な監督にも服さず、夜遊びや無断外泊をかさね、さらに、○○学校女生徒を暴行のうえ、強いて姦淫する等、刑罰法令に触れる行為をなしたものである。

上記の事実は、昭和四九年一〇月二日付那覇保護観察所長から提出された戻し収容申出書及び同書添付の関係書類によつて明らかであつて、さきに本人が仮退院に際して誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の一般遵守事項のうち、

(1) 一定の住居に居住して正業に従事すること

(2) 善行を保持すること

及び同法第三一条第三項にもとづき、九州地方更生保護委員会第三部が定めた特別遵守事項のうち

(3) 早く定職につき、地道にしんぼう強く働らくこと

(4) 家出、無断外泊、夜遊びなどはしないこと

(5) 女性に対していたずらは絶対にしないこと

(6) 毎月、保護司を必らず訪ね、何事についても進んで相談すること

のそれぞれに違背するものである。

以上の事実を総合検討するに、本人は知能極めて低劣で、精神的発達度も著しく未成熟であり、加えて聾唖者という身体障害を有する少年で、一般少年に比較して、その処遇は極めて困難を伴うものと考えられ、那覇保護観察所においても、この点に留意し、分類処遇の許定を、処遇が困難と予測される者(A)として慎重に保護観察を実施してきたものであるが、本人は、改善更生の意欲が認められず、その行状は保護観察開始後極めて短期間に反社会性が強まり、このまま放置すれば同様な生活を繰り返して犯罪に陥る虞は極めて強いものがある。一方家庭環境においても、保護者は昼間は就業しており、監護能力も欠如し、これに代わるべき適当な保護者も認められない。

かかる本人の行状及び反社会性は、すでに保護観察による社会内処遇の域外と言うべく、もはや保護観察によつて、本人の改善更生をはかることは極めて困難であり、他方現在他に利用すべき社会資源もない状況にある。

よつて、この際、本人をすみやかに医療設備の施された少年院に戻して収容し、再度本人の心身の状況に適した専門的処遇及び規律ある団体訓練を施すことによつて、健全な生活の意義を体得せしめ、勤労意欲を助長し、健全な育成をはかる必要があるものと認め、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定にもとづき、本件戻し収容申請におよぶものである。

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